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突然だが、皆さん、辞書は好きだろうか。

「このネット時代に辞書をひく機会なんかないわ」と思う方が大半かもしれない。しかしそんな時代にあって、辞書マニアたちが辞書を愛で、辞書の魅力を発信するイベントがある。その名も「国語辞典ナイト」。

「ググれば何でも出るこの時代に国語辞典…?」などと思うかもしれないが、最近辞書に触れることの少なくなった人も辞書の魅力を再発見できるイベントなのだ。

当日は実況ツイートも多かった

これは気になる……と、いうわけで12月5日に渋谷の東京カルチャーカルチャーで開催された「今年の新語2018 meets 国語辞典ナイト!」にやってきた。会場は満席。辞書好き・日本語好きでひしめき合っているのかと思うと既にワクワクする。

「国語辞典ナイト」の開催は実に8回目となるが、今回の「国語辞典ナイト」は二部構成。第一部は三省堂による「辞書を編む人が選ぶ『今年の新語2018』」選考発表会で、ちょっと堅め。第二部は普段の「国語辞典ナイト」で、普段どおりライトに国語辞典の深淵を覗く会となっている。

「今年の新語って、ユーキャンの"新語・流行語大賞"とどう違うの?」と思った人もいるだろう。「新語・流行語大賞」がいわゆる"今年の世相"を反映した言葉を選ぶのに対し、「今年の新語」は辞書編集者の方々が"そろそろ辞書に載ってもいい言葉"を選ぶ、という企画になっている。数年後に「あったあった」となりがちな流行語大賞に対して「今年の新語」は数年後も使われてそうな言葉が選ばれる、というわけだ。コンセプトが辞書っぽい!!

「今年の新語2018」に選ばれた言葉は…?

左から、総合司会の古賀及子さん、選考委員の山本康一さん(三省堂『大辞林』編集長)・瀧本多加志さん(三省堂出版局長)、ゲストで脚本家の北川悦吏子さん、選考委員の小野正弘さん(『三省堂現代新国語辞典』編集委員)・飯間浩明さん(@iima_hiroaki『三省堂国語辞典』編集委員)。辞書会の大物が集結している。

オレンジジュースを飲みつつ待っていると第一部の選考発表会が始まった。選考委員の辞書編集者の面々に2018年に放送されたNHK連続テレビ小説『半分、青い。』の脚本を手がけたゲストの北川悦吏子さん(@halu1224)を加えて、さっそく発表がスタート。

選考の結果に関しては「今年の新語2018」公式サイトに全部載っているので、ここではダイジェストでお送りする。公式サイトの選評では「わかりみ」「モヤる」などの砕けた言葉が徹底的に分析されており、読み物としてもめっちゃ面白いので、ぜひ読んでいただきたい。

入選した言葉は、本物の辞書編集者の方が「語釈(単語の説明)」を書いて本人が読み上げる。贅沢!!8位の「寄せる」のように前からある言葉が新しい使われ方をした場合も選考対象になるようだ。似せる意味の「寄せる」って最近だったんだ……!

スライドがいちいち凝っている。6位の「肉肉しい」はどこかで見覚えのある文字…。

大賞は「ばえる」。「インスタ映え」の「映え」が独立して動詞になったものだ。濁音から始まる和語は「ばれる」「ずれる」などネガティブなものが多い中、ポジティブな「ばえる」は珍しいとのこと。なるほど~!

「ばえる」のスライドもばえる〜

ここまででイベント開始1時間「今年の新語2018」の発表が終わったころに北川さんは「もしかしてこの人達は普段辞書を作ってる方なんですね……?」と気づく。天然な言動を振りまき学者肌の共演者を翻弄した。

こうして発表された「今年の新語2018」は次の通り。

結果を振り返ると、ネット由来の言葉や日常生活で何気なく使われる言葉が多い印象だ。「今年定着した言葉」というが、定着したかどうかはどのような基準で判断しているのか尋ねると「定着したかどうかの判断は難しいが"そろそろ一般の人に知られてもいいのではないか?"というのもひとつの判断基準にして選んでいる」(飯間浩明さん)だそうだ。

辞書マニアは「今年の新語」にモヤる!?

第二部からは普段の「国語辞典ナイト」のレギュラーでレギュラー陣で辞書コレクターの西村まさゆき(@tokyo26)さん、辞書マニアで校閲者の稲川智樹(@ingwtmk)さん、見坊行徳さんが登壇し、国語辞典トークを繰り広げた。

司会の古賀さん、飯間さん、小野さんに加え、辞書コレクターの西村まさゆきさん(左から2番目)、辞書マニアで校閲者の稲川智樹さん(右から2番目)・見坊行徳さん(一番右)が登場

まずは「今年の新語2018」に対する講評。辞書マニアの稲川さん・見坊さんは今年の選考結果に「モヤる」ところが多いようで、やや不満の表情だったが、大賞の「ばえる」には二人とも納得したよう。

「モヤる7割 わかりみ3割」の図を掲げる稲川さん

そしてそのまま国語辞典ナイトレギュラー陣、早くも(勝手に)「今年の新語2019」を決定してしまう「納得できないなら自分たちで決めればいいじゃない!」と勝手に来年分を決定してしまう自由なレギュラー陣。西村さん・稲川さん・見坊さんが来年定着してそうな新語を予想して持ち寄った。

スライドのデザインまで三省堂のパク…「寄せて」いる。

大賞は「ナムい」。

「思わず仏に帰依したくなるような、ありがたい感じだ。」という意味とのこと。2018年後半からTwitterなどでじわじわ広まっており、来年定着すれば本当に選ばれるかもしれない。

2位は「芯食った」。テレビで芸人などがよく使っているようだ。本家と同様にテレビや新聞、ネット、会話などあらゆる場面の日本語を観察していて面白い。

4位の「ヤキモチャー」は稲川さん選。曰く「誰も使ってないです」。少女漫画雑誌で見かけて「いい言葉」と思って入れたらしい。これで本当に定着したらすごい。

「今年の新語2019」の発表が終わると、辞書編集者の飯間さんにバトンタッチ。『三省堂現代新国語辞典』(以下『現新国』)のプレゼンが始まった。『現新国』といえば、2018年10月にブログで「ヤバい」「(趣味の)沼」などが載っていると紹介されネット上で話題になったのをご存知の方も多いだろう。ちなみにゲストの小野さんは『現新国』の主幹編集委員だ。

飯間さんのスライドはめちゃくちゃ凝っている。「一番時間かかったのがここです」とのこと

『現新国』は「役不足」のように意味が変化しつつある項目の手入れもしっかりされている。さらに、高校生の学習に特化しているので、現代文の教科書に出てくるが他の辞書には載ってないような単語も多数収録されている。大学受験には必携かもしれない。

最後に飯間さんは自身が編集委員を務める『三国(三省堂国語辞典)』の宣伝も忘れなかった。

なぜその語が載ってる…?恐るべし『角川国語辞典』

お次は西村まさゆきさんのプレゼン。『角川国語辞典 第六版』は1969 年に発売され、現在でも購入できるが、発売以来内容があまり変わってないらしい。巻末に収録されている「新語」がいろいろすごいとのことで、その一部を紹介してくれた。

「悪書追放」が新語として載っている。

妙に限定的なポップアート観を展開。

時代を感じる「新語」の数々。

 

今見ると思わず笑ってしまう「新語」の数々。西村さんの巧みな話術もあいまって会場は終始笑いに包まれた。それにしても、実際に比べてみると辞書にもめちゃくちゃ「個性」があるんだ……と感心してしまう。

この語は辞書に載ってるか!?まさかの辞書編集者がハズす!

どこか見覚えのあるタイトルデザイン

最後は、辞書マニア稲川さんによる「『三省堂現代新国語辞典』見出し語ドボンクイズ」。25個の単語のうち『現新国』に載っていない単語を選んだら負け、というクイズなのだが、なんと稲川さんは『三省堂現代新国語辞典』のすべての項目を読んだ上でこのクイズを作ったという。「辞書をまるまる一冊読む」なんて…辞書愛にあふれる稲川さんにしか作れない企画といえるだろう。

25個中5つはドボン(『現新国』に載っていない単語)。『現新国』の編集委員である小野さん・飯間さんも参加する。編集してるんだから有利じゃん!と思いきや…なんと一巡目にして飯間さん失格!「社会現象」は載っていなかった。

そして次にドボンしたのは主幹の小野先生!「カピバラ」は掲載されていない語だった。「カピバラ好きなのに〜!」と自分の辞書に裏切られ唖然とする小野先生。第7版ではカピバラも載るかもしれない。

最後には西村さんと見坊さんの一騎打ちとなり、西村さんがドボンを選んでしまい見坊さんの勝利となった。

渾身のガッツポーズ

「平行四辺形」や「ビブリオバトル」が載っている一方で「ボコる」が載っていないのは、学習辞書としての特徴を反映した結果のようだ。こんなところにも辞書の個性が垣間見える。

かくして「国語辞典ナイト」は終了。2時間半にわたり辞書の魅力を全身で浴びてしまった…。このレポではこれでも内容のほんの一部しか触れられていないのだが、とりあえず国語辞典沼の深さがおわかりいただけただろうか…!

「国語辞典ナイト」は不定期開催につき次回開催は未定だが、日本語ユーザーなら誰でも楽しめること間違いなしのイベントだ。興味の湧いた方は次回ぜひ参加してみてほしい。

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