年越しそばに憧れる蕎麦アレルギー持ちが「蕎麦に限りなく近い麺」を作ってみた

今年こそ年越しを味わうんじゃ…!
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試食会を開いてみた

あとはクルミ麺のブラッシュアップをしていくわけだが、麺を食べた第三者の感想が編集部員1名だけだと心許ないので、Kさんと、Kさんを紹介してくれた私の友人・Mさんをオフィスに招待して試食会を開くことにした。12月半ばの話である。

試食会当日までに試行錯誤を重ねた結果、クルミ粉の割合はつなぎに対して2割程度が、麺としての形を保てるラインであることが分かった。二八蕎麦の逆だ

何回か試作品を作る中で麺づくりの基礎工程にはある程度慣れ、初回の惨事に比べてだいぶ「蕎麦を打ってる感」が出てきた。

軽快なトークをしながら麺を打つ

事前に練習したバージョンでは麺が切れずに形を保ったまま、すすれる状態まで持っていけたのだが、お二人に出す本番に限って、麺がボロボロに切れてしまうズッコケが発生した。茹でた麺を水で締めるにあたって、麺をほぐす指の力が強すぎたようだ。

麺を作る工程には慣れてきたとはいえ、ゆで時間やその後の処理のさじ加減で仕上がりがブレる。クルミ麺はまだまだ不完全なフェーズにあるのだ。

こんな状態で蕎麦屋の娘さんに食べてもらうのは非常に畏れ多いが、「これが今のあっしの精一杯でぃ!」と潔く提出。

「こんな麺喰えたもんじゃねぇや!」と言われないか不安

肝心のお味は?

まず何もつけず麺だけで食べてもらうことに。KさんとMさんの反応は…

K「見た目は蕎麦っぽいね」

M「たしかに」

(二人とも一口食べてみて)

K「あっ、香りは蕎麦食べてる時に近いかも!

M「確かにそこはかとなく蕎麦だ!クルミの主張が強すぎないから食べやすい

良かった、意外にも反応は好調だった。そして、二人ともちゃんと「蕎麦っぽい」と言ってくれたではないか。

続いてネギ、麺つゆ、天ぷらなど蕎麦の付け合わせと併せて食べてもらった。

M「麺つゆ薬味と食べたらかなり蕎麦だね

K「確かに!『これ、蕎麦です』って言われて出されたら分からないかも

蕎麦を彩る役者たちの力も借りると、クルミ麺は脳を騙すレベルで蕎麦に近づくことが分かった。(それはつまり、蕎麦の魅力の大部分を薬味やつゆが担っていることを裏付けているのかもしれないが…)

とにもかくにも、計3人の第三者による証言をもって、クルミ麺が蕎麦の代替えとして十分に役割を果たすことが分かった。

麺が切れてしまう原因は…

しかし、麺が切れてしまう残念さはなんとか乗り越えたいところ。クルミ粉で切れない麺を作るために、ほかにどんなポイントを改良できそうか。

ありがたいことに、Kさんがその場でご実家に「麺が切れる理由」について質問を送ってくれた。蕎麦屋の御主人が言うことには

水回しが十分でない可能性が高い

・つなぎに「ふのり」を使ってみるというのも手かも?

とのことだった。水回しは蕎麦打ちの工程の中でも要と言えるほど重要なポイントで、丁寧に行って粉と粉にしっかり水分がいきわたるようにしないと麺が切れやすくなってしまうことが分かった。

単純に麺をまとめやすくするための工程だと勘違いしていた。水回しは蕎麦が切れるかどうかも左右していたのだ。

「ふのり」とは海苔の一種で、新潟県にはフノリを蕎麦のつなぎに使った「へぎそば」なる一品があるらしい。

ふのり

これを聞いて、ピンときた。

「蕎麦の風味は青海苔っぽい」

と言っていた人もいたじゃないか!!!!

これは試してみる価値がありそうだ。

アーモンド麺、麻の実麺の味

クルミ麺に関する貴重な情報と所感をいただいたことで、ひとまず改善の糸口は見えた。

お二人には、せっかくなのでアーモンド麺麻の実麺も食べてみてもらった。

アーモンドパウダーと麻の実パウダーは、クルミパウダーに比べて細かく、つなぎに対して5割の量を入れても問題なく麺の形にすることができた。粉の細かさもまた、麺の作りやすさに影響するポイントのようだ。

アーモンド麺の玉。アーモンドから出る油が尋常でない

麻の実は抹茶の餡みたいなビジュアルになった。

麻の実麺の玉。和菓子みたい

完成した麺がこちら。

油分でテラッテラなアーモンド麺
青すぎる麻の実麺

2人に食べてもらった感想は、以下のようなものだった。

【アーモンド麺】

K:まずくはない(ふつうに食べられる味)けど、蕎麦っぽいかと言われると別物という印象。噛んでいるとアーモンドの香りや甘味の主張が強かった。やはり脂っぽさがある。

M:口に入れたときはそうでもないが、噛み続けているとアーモンドの甘みと油分がかなり主張してくる。不味くはないが少々重く、蕎麦とは別もの。鴨出汁で食べると脂がすごい。

アーモンド麺は、とにかく麺のコクが強く、これまでに食べたことのない味なのだ。油分の多さは、麺としての重さに繋がっていた。人に伝え難い味わいだったので、気になった人は試してみていただきたい。ちなみに私はけっこう好きな味だった。

【麻の実麺】

K:見た目の黒さのインパクトがあった。味以上に粉っぽい食感が印象的で口の中に残る。あまりおいしくはなかったですね…

M:何故か粉っぽく、粉感がしばらく口の中に残る。あとなんか苦い。蕎麦ではないしあんまり美味しくない

麻の実麺は惨敗。草のような味わいだった。茹でた時点で、麺の形をとどめておらず、5割は明らかに入れ過ぎだったと反省した。

しかしM氏は「あんまり美味しくはないけど、麺つゆとなら意外と食べられる」

と完食し、一同を驚かせた。麻の実は健康に良いらしいので、分量など工夫すれば、麻の実麺にも食材として成立する可能性があるかもしれない。それにしても麺つゆの偉大さよ。

こうして、波乱の試食化は幕を閉じた。次はいよいよ、大晦日に向けて代替え蕎麦を完成させるフェーズだ。

次ページ:麺をアルティメット版に仕上げる

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書いた人
ふ凡社

Togetterオリジナル記事編集部員。平凡から非凡へ向かう道を探す男。

Twitter:@Hubonsya