官能小説で見た「パンティの中はお祭り騒ぎ」の一言にうつから救われ、やがて作家になった男の話 

小説家・山塚リキマルさんインタビュー
2

ーーTwitterで「パンティの中はお祭り騒ぎ」のツイートが話題になった感想を教えてください。

山塚:「くだらないフレーズで救われることってあるよね」という思い出を、何とはなしにつぶやいたつもりでいたのですが、いい話です、感動しました、みたいなコメントがついて、自分の体験談を語ってくださる方もいて。

なんだか、すごいなと思いました。改めて「文章ってやっぱり、こういうものだよな」と。どうとらえてもいいし、広がっていくことに面白さがあります。

あと、ツイート自体は小説家としての活動とあまり紐づけてなかったんですが、よく考えたら「この経験のあとに自分が小説家になった」ってすごくいい話だな、と自分で思いましたね(笑)

ーー小説家として、大切にしている信条を教えてください

山塚:私は自分の作品を「SF」だと思って書いています。一般的にSFは「サイエンスフィクション」のことを言いますが、私のSFは「ソウルフルフィクション」です。

サイエンスフィクションが科学を扱うフィクションであるのに対し、ソウルフルフィクションは奇跡を扱います。「世の中ではこういうことがあるんじゃないか、いやあるはずだ、少なくとも俺の中ではある!」という気概で、テンションの高い作り話を書いているのです。

私は、ソウルミュージックという音楽が好きです。ソウルミュージックはヤバイ恰好をした人が、ヤバイふりつけとともにずっと裏声でラブソング歌ってるみたいなヤバイ世界ですが、めちゃくちゃ笑えるし、なのに凄く感動するという不思議な力を持ったジャンルです。

私もソウルミュージックのような、100%マジな感覚を言葉にしたい気持ちで物語を書いています。

山塚さんの目指すソウルフルな世界観は、現在noteで無料公開されている小説『Soulful Fiction Novel Number One 『LOVE(Original Mix)』を読むとダイレクトに実感することができる。

各話にソウルミュージックの名曲が登場する

ミラーボールとDJブースがあるコインランドリー」という、現実離れした空間を舞台にした物語なのに、読んでいるうちに、物語の中で起きている出来事を「まぁそういうこともあるよね」と自然に受け入れてしまうような、不思議な読書感のある作品だ。

インタビューの最後、山塚さんに気になっていた質問を投げかけてみた。

ーー「パンティの中はお祭り騒ぎ」の小説を、改めて読んでみたいと思いますか

山塚:今読んでみたい気もしますが、知りたくない気もします(笑)。

なにしろ1回きりの出来事だったので、実際は「パンティの中はお祭り騒ぎ」じゃなくて微妙に言い回しが違う言葉だったりしたら、ちょっと恥ずかしいなと。

でも、俺の中では面白かったから、それでいいのです。あれがどんな本だったのか知らなくてもいいし、間違って覚えていてもいいなと思っています。

「パンティの中はお祭り騒ぎ」は僕の中で真実なので、現実はあんまり関係ないという感じですね。

トゥギャッチ編集部は、「パンティの中はお祭り騒ぎ」のフレーズが書かれた小説をできれば特定しようと考えていた。しかし、山塚さんのソウルフルな話を聞いた後では、特定するのは少し野暮な気がして止めることにした。

フィクションみたいな出逢いは、フィクションの中だけでなく、リアルな現実にも転がっているかもしれない。そんな希望を感じられるインタビューだった。

 Profile:山塚リキマル

 作家。第1回ジャンプ恋愛小説大賞で銅賞。集英社ノベルアプリTanZakで『真夏の午後のインベーダー』『Re:write』『赤信号が君の顔を照らして』『僕らの知らない青』掲載中。ソウルバンド「ヤングラヴ」プロデュース、ヒップホップクルー「中華一番」のダンサー、作詞家など多岐にわたり活躍。

記事中の画像付きツイートは許諾を得て使用しています。