「今年の新語2020」が「ぴえん」に決まった理由は?審査員に舞台裏をあれこれ聞いてきた

言葉が大好きな人のためのディープなレポートです
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2020年11月30日、「今年の新語2020」が発表された。辞書メーカーの三省堂が毎年開催しているイベントで、一般募集した「今年よく聞いた言葉」などの中から、辞書を編む専門家がベスト10を選ぶ企画だ。

今年選出された新語は以下の通り。

選考発表会では、今年も辞書の専門家が、言葉への愛あふれる熱い解説を披露(詳しい選評はこちらのページから確認できる)。さらにトゥギャッチ編集部の取材に対して、「選考の舞台裏」をたっぷり語ってくれた。めくるめくディープな新語の世界をレポートする。

辞書の三省堂ならではの選出ポイント

選考発表会では『三省堂現代新国語辞典』編集委員の小野正弘先生(中央)、『三省堂国語辞典』編集委員の飯間浩明先生、『大辞林』編集部山本康一編集長(左)が登壇。(以下、敬称略)

写真右から飯間先生、小野先生、山本編集長、司会の古賀及子(デイリーポータルZ)さん

5回目となる今回は、応募総数4871通の中から、被りをのぞいて合計714語の候補が集まり、トップ10のほかに、新型コロナ関連の言葉をまとめた「コロナ枠」が設けられた。

「今年の新語」は、単に「投稿数の多さ」や「よく使われていた」という点だけで選ばれているわけではない。例えば、今年たくさん使われた「ソーシャルディスタンス」は投稿数も非常に多かったというが、ランキングでは選外となっている。かたや、同じくコロナの影響で普及した「リモート」は4位に。この違いはどこにあるのか?

飯間:今年の新語は、辞書を作る人間がやっている企画ということで「日本語として今後も定着するであろう」という願いを込めて選んでいるんですね。その意味では、「リモート」という言葉は、これから先も使われていく可能性があるということで選出しました。

小野:ソーシャルディスタンスが入ると予想していた人はたくさんいると思いますが、この言葉はコロナが終息した後は使われなくなる可能性が高い。さらにいうと、「今後は消えてほしいな」という願いも込めつつ、選外となりました。

トップ10に選出されたポイント

今年の新語トップ10に選ばれた言葉の中からいくつか抜粋し、選出の理由や印象的だったポイントを紹介しよう。

10位 チバニアン

日本由来の言葉が地質時代の名称に使われるのは初。記念の意味も込めて選出

9位 グランピング

言葉自体は前からあった(『大辞林』には掲載されている)が、今年特に、「野外で活動したい」という気持ちの社会的な高まりから、「ソロキャンプ」とともに、コロナ時代のアウトドアとして一気に関心が集まった

・グランピングの語源は「グラマラス+キャンピング」。2つの言葉の頭とお尻を、スーツケースのふたを閉じるようにつないで作る「カバン語」の一種。「ゴリラ+クジラ=ゴジラ」と同じ原理。言葉としての成り立ちが面白い。

 

8位 まで‐ある

・「まで-ある」の新しい用法は、従来の日本語文法的には崩壊している(語釈②の例文参照)。

・一方で新しい用法は、10年以上前から使われている。本当に文法的におかしいなら、そもそも言葉として使えないはず。一定期間以上使われ続けているということは、ある種文法上の役割を果たしていると言える

・普通だと「間違いだ」と言われる用法もどんどん取り入れるのが「現代新国語辞典

・本来「まで-ある」は、名詞につく言葉。新しい用法例の「5回見に行ったまである」は、「見に行った」までを名詞節と考えると文法的に説明がつく。

6位 優勝 

・ネットでは「一番うまいこと言った奴が優勝」みたいな文脈で使われることが多かった。そのあとに「パンケーキで優勝」など「大満足」の意味が加わった

・大満足の意味として使われ始めてから、もう10年くらい経っている。「日本語として定着しているとみてよいだろう」ということで、今回満を持して選出。

・別の言葉で「一番」を示す言葉として多く使われた「しか勝たん」についても言及。「しか勝たん」は辞書に載せるとしたら、区分が難しい。終助詞にみえるが、「活用されれば助動詞にもなりうる」可能性がある

5位 マンスプレイニング 

・「今年よく聞いた」という人もいれば、「何それ?」と思う人もいるかも。

・今まで、この行為に名前がついたことがなかった

・英語で使われるようになったのは21世紀になってから。言葉としても新しい。

・問題行為について、社会的に「ダメなんだよ」という認識を広げるためには、「言葉にして明るみに出す」ことが大事。

4位 リモート 

・新型コロナの影響で、既存の言葉に新たな語義が加わった形。

・例えば「リモート帰省」は、実際には帰らないのに帰省を表す言葉。概念からして新しい。

・同じ意味で使われた「オンライン○○」も投稿数が多かったが、「略したときに使いやすいかどうか」という点で、リモートに軍配があがった(例:リモート映え→リモ映え)活用のしやすさも新語選出のポイント。

・リモートは新しい生活様式として手放せない存在に。これから無くなることはないだろうという予想。

2位 ○○警察

・もともと「着物警察」や「言葉警察」など、いろんな分野であった言葉だが、「細かく指摘することの意味で使われている」という共通認識がなかった

コロナ禍で「自粛警察」の言葉が登場し、報道などを通じて一気に定着した。

・本職の警察にとっては少し複雑な気持ちかもしれない。あくまで「警察でもないのに警察のようなことをやっている」という風刺だという点に留意。

辞書のプロによる新語の解説は、どれも興味深く、膝を打つものばかり。「今年流行ってた」というところからさらに踏み込んで、それぞれの言葉にしっかり「日本語としての根拠」を見出していることがわかる。

しかし、10位の中でも、トップの「ぴえん」だけは、異彩を放っている。辞書のプロが、「ぴえん」を一過性で消える流行語ではなく、日本語の仲間になりうると判断したポイントはどこにあったのか。

選考発表会終了後、3人の専門家に直接掘り下げて聞いてみた。

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